【私の伝える道~SNS編】 ユーチューバー連載で見えてきた「仏教×○○」の可能性

 「ユーチューブで法話を発信している僧侶がいるらしい」。そんな話を耳にしたのは5年ほど前でした。その耳慣れない仏教とSNSの掛け合わせに違和感を覚えつつ、なんだかワクワクしたのを覚えています。何か新しい時代が始まる気配を感じ、すぐに「取材させてもらおう」と思いました。

 申し遅れました。私は毎日新聞の花澤茂人と申します。伝統仏教を中心に宗教や文化財をテーマに取材を続けています。また、仏教の考え方に深く共感したこと、そして「中に飛び込んでこそ見えるものがある」という直感から、9年前にはご縁をいただいた奈良・東大寺(華厳宗)で得度した仏弟子でもあります。ちなみに僧名は「茂照(もしょう)」です。

 さて、私が「法話ユーチューバー」に反応したのは、それまでの取材を通じて法話に大きな期待を寄せていたからです。奈良・薬師寺で、仏教にまったく興味のなさそうな修学旅行生たちを爆笑させつつ、大事な教えを伝えている若手僧侶に衝撃を受けたことがきっかけでした。法話を上手に届けることで世界が変わるのでは。大げさに言えばそんな思いを抱いていました。

 私がその時に出会ったユーチューバー僧侶は、真言宗須磨寺派大本山・須磨寺(神戸市須磨区)の小池陽人さん(36)でした。「未熟な自分にできるかとためらった」と謙虚な姿勢を持ちながらも「今の感覚でしか語れないことがある」と熱く語る小池さんの人柄に魅了された私は、一つの記事で紹介するだけでなく、いつかこのお坊さんを主人公にした連載企画をしたいとチャンスを狙っていました。

YouTubeで法話を発信し続ける小池陽人師。お題法話でもお世話になっています。

 そして2022年春、それが実現したのです。名付けて「僧侶・陽人のユーチューバー巡礼」。小池さんがさまざまなジャンルのユーチューバーと対談し、なぜ情報発信をするのかや、ユーチューバーとしての喜びや苦悩を語り合ってもらうという企画です。その対話の中から、情報があふれる現代社会の一側面が浮かび上がってくると期待しました。

 4月から原則毎月1回、朝刊の文化面で掲載しています。12月までに、フォトジャーナリストの安田菜津紀さん、お笑い芸人のせやろがいおじさん、サッカー元日本代表の戸田和幸さん、ロシア出身コンビのピロシキーズ、農園ユーチューバーのひろちゃん、LGBTQユーチューバーのかずえちゃんにご登場いただきました。紙面だけでなくニュースサイトでの発信にも力を入れ、対談の様子の動画も撮影しています。とはいえ新聞社は動画製作に関してはまだまだ未熟。手だれのユーチューバーの方たちの前ではお恥ずかしい限りなのですが……。

 さて、この連載を通じて私が痛感していることがあります。それは「仏教って本当に間口が広い」ということです。対談相手は小池さんと私で相談しながら決めているのですが、どんなジャンルの方が相手でも対談が「法話」になるのです。もちろん小池さんの引き出しの多さと懐の深さのおかげですが、毎回「そこでかみ合うのか!」と驚かされます。

 例えば、サッカーの戸田さんとの対談でのこと。指導者でもある戸田さんが「プレイヤーはみんな同じではない。違った個性を大切にすることで個人としてもチームとしても成長する」という趣旨の話をした時、おもむろに小池さんが「真言宗では曼荼羅というものを信仰するのですが……」と切り出したのです。え待って、いま曼荼羅のお話?と一瞬思いました。しかし小池さんは続けます。「中央に大日如来という仏様がおられ、周囲に姿形が違うたくさんの仏様が描かれています。すべての仏がすべての仏に対して祈っている。自分はみんなのために祈っているし、みんなも自分のために祈っているといった関係性があって、多様性を保ちながら調和されている世界なんです。これ、サッカーも一緒かなと思って」。なんと見事な法話! 感動してしまいました。

 仏教そのものを真っ正面から発信することが尊いのはもちろんですが、それが届く範囲にはどうしても限界があると感じます。しかし、仏教は「コラボ」の可能性が相当に広い。「仏教×○○」という掛け合わせの妙が生まれれば、とんでもない化学反応が起こらないとも限りません。SNSを駆使した発信とは、そんな可能性を探りながら、教えの種を広く蒔いていくことなのだと思います。

 と、偉そうなことを言いながら、「ユーチューバー巡礼」も現時点では大きくバズった回があるわけではありません。小池さんと一緒に、当面は模索しながら連載を続けて参ります。どうぞご注目ください!

毎日新聞の連載ページ「僧侶・陽人のユーチューバー巡礼」はこちら

花澤茂人

毎日新聞大阪本社学芸部専門記者 

毎日新聞大阪本社学芸部専門記者。1982年、千葉市生まれ。2005年、毎日新聞社に入社。奈良支局、京都支局を経て15年から大阪本社学芸部。奈良町の古民家暮らし。ツイッター(https://twitter.com/Mosho_Hana



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