【私の伝える道~SNS編】 宿泊施設が1件もなかった町に生まれた寺泊が、ただの観光地ではない「感動地」としてファイナリストに選出されるまでの道

もともと東京のベンチャー企業に勤めていた私は、お寺×◯◯という掛け算で、自坊に戻るときにこの◯◯の種をいかに見つけられるかを考えていました。私が住職になるだろう年代は人口減少時代。なにか新しいことに取り組まなければきっと立ち行かなくなる!と思い、新しいことが起きそうな環境に身を置こうと赤色の人材系メガベンチャーに飛び込みました。

新しいことを起こそうにも新しいことを起こしたことがなければそのやり方、感覚もわからない。そんな思いのもと日々働いていました。お寺とは全く違う業界で働きつつも、どうもお寺に気を持っていかれてしまう。新しいことに取り組むのも大事だが、まだまだお寺界隈のことを全然知らない。もっと近しい業界に移ろう!と決め、いざ転職。黄色い葬儀業界のITベンチャーに移り、そこから数多くのお寺さんや葬儀社さんとともに事業に触れてきました。

そこで起点となるのは大切な方の「死」。このサービスはお寺さんとの御縁がない方向けにお寺さんや葬儀社さんを紹介するサービスです。大切な方の「死」がある種のきっかけとなってはじまる御縁。田舎のお寺出身である私は当初、こうしてはじまる御縁がなぜあるのか理解に苦しみました。生まれた頃からお寺で育ち、地域の方々と接点がある中では、なかなか気づけないインサイトがそこにはありました。その一度離れた縁をつなぎ直す最後の受け皿としての役割をもったこのサービスの仕組みは、とても素敵なものだと感じていました。

ですが、このサービスがどうして生まれたのか、なぜ必要とされているのか、を考えれば考えるほど、その前段階にできることがあるのでは、と思うようになりました。

そう、「死」が起点となるのではなく、「生」が起点となることはできないのだろうか、と。

元来、仏教とはいまを生きる人々の抜苦与楽をもたらすものなのではないかと。真っ当なお坊さんであれば、そもそもビジネス界隈で業を成すのではなく、お坊さんとしての道を追求するのでしょうが、経済学部出身のベンチャー企業勤め。事業の仕組み等に興味がある私は、この「生」を起点として事業体がお寺にもあるのではないかと思い始めます。もちろん持続性のある事業体。

そのようなことを考えていた2018年。この年は住宅宿泊事業法という新しい法律ができた年でした。あ、あった!お寺が元来行っている「生」の事業体。そう、宿坊です。そうはいっても今まで経験したことのない業態。すぐに自分でやるにはハードルが高すぎます。その業界で事業を行っている企業はないか。
探し始めるといろいろつながっていくものです。これもまた素敵な御縁をいただいて従来の宿坊とは一線を画すスタイルで事業を行っている会社へ転職します。

そこで歴史に幕を閉じようとしているお寺を再生したり、従来の宿坊を現代に形で合うようにリノベートしたり。ここでもたくさんの事例を学ばせていただきました。そして機は熟し、自坊でもチャレンジしようと動き始めます。


 前置きが長くなりましたが、構想から約3年。ようやく2023年1月にTEMPLESTAY ZENSŌはオープンします。その3年間や上記以外のストーリーはこちらの記事で詳しく紹介されているので、ぜひご覧ください。本当に素敵な文体でまとめてくださっています。

千代田町唯一の宿は”寺泊”。高評価を生み出すZENSŌ「角度」の妙

 そして、オープンに伴い様々なメディアに取り上げていただき、たくさんの方にお越しいただきました。日本に限らず、欧米中華圏など様々な国から。慣れない英語でどうにかコミュニケーションを取り、1組1組のゲストの重みを感じ、素敵なレビューに励まされ1年少々。1年回してみるとなんとなく見えてくる世界があります。

こうした田舎の小さな宿泊施設は、もちろんオープンまでも大変だけれども、ゆっくり着実に育てていくことが重要だと考えています。少し芽が出始めた頃、ジャパントラベルアワードという、ただの観光地ではない「感動地」を選出する取り組みを見つけました。

宿泊施設の規模や利便性、豪華さ等、観光としての戦いはできなくても感動としての戦いにはもしかしたら可能性があるかも?と今までのレビューに後押しされ、いざ応募。少し時間が経ち、どうなったかなーと思っていた頃、一通のメールが・・・。なんとファイナリストに選出いただくという有り難い通知が!

 これから現地審査を得て、受賞者の発表となります。観光地ではない、その地域の生活を肌で感じ、お寺というユニークな体験を身近に感じてもらう感動地としてどう届けることができるか。そして、「生」を起点としたお寺と人々の接点をどう創り上げていくか。ゆっくりと育っていくTEMPLESTAY ZENSŌにご期待ください。

※ジャパントラベルアワードとは?
観光からより良い社会をつくることを目的としたアワードです。観光における DEI*、サステナビリティ、インバウンドへの取組みを審査し、ただの観光地ではない「感動地」として、グランプリ、部門賞、特別賞を選出します。 *Diversity, Equity, Inclusion = 多様性、公平性、包括性
ファイナリスト一覧:https://japantravelawards.com/jta-2025-finalists-jp

海野峻宏

黄檗宗宝林寺副住職 1991年生まれ。
複数のベンチャー企業での経験を活かし、2023年1月に幼少期を過ごしたお寺の離れを改装し、TEMPLESTAY ZENSŌをオープン。住職は十職であるという言葉に共感し、様々な事業にも携わり、現在は檀信徒管理にとどまらないお寺向け総合情報プラットフォームを開発中。

TEMPLESTAY ZENSŌ:https://zenso.horinji.or.jp/
宝林寺:https://horinji.or.jp/



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